今年7月に発表された「手塚治虫遺伝子解析プロジェクト」。手塚治虫のベレー帽に残っていた毛髪から“漫画の神様”の遺伝子を解析するという同プロジェクトは、国内外で大きな反響を呼んでいる。
今回、同プロジェクトを実施するジェネシスヘルスケア株式会社(東京都渋谷区)に「手塚治虫遺伝子解析プロジェクト」や遺伝子解析の現状について話を伺った。
『ネオ・ファウスト』がプロジェクトのきっかけに
――どのような経緯で「手塚治虫遺伝子解析プロジェクト」は始まったのでしょうか?
日本で遺伝子解析および遺伝子研究に特化した事業を行ってきた当社が、設立11年目を迎える今年、襟を正した形で消費者に啓蒙活動をしていきたいと考えていた時、あるご縁でご紹介いただいたのが手塚眞先生でした。運命の出逢いから「手塚治虫遺伝子解析プロジェクト」は始まりました。
最初は、広告の映像制作やプロデュースをお願いするつもりで眞先生にお会いしたのですが、色々とお話するなかで、手塚治虫先生の絶筆であり、遺伝子を題材とした作品『ネオ・ファウスト』について話してくださいました。治虫先生は“未来の科学技術”として遺伝子に着目しており、眞先生の好奇心から「手塚治虫先生の遺伝子が解析できたらどのような姿が浮かんでくるのだろう」「もしかしたら、遺品のベレー帽のなかに髪の毛が残っているんじゃないか」という話から、今年の春にプロジェクトがスタートいたしました。
ベレー帽から160本の髪を採取
――どのようにして手塚治虫先生の遺伝子を採取されたのですか?
手塚治虫が愛用していたベレー帽から160本の遺髪を取り出しました。この限られた本数から、手塚治虫という人物を読み取る必要がありました。研究員は、DNA抽出の条件検討を行うために、実際のサンプルを使うことができないので、まず研究員の手によって1本1本遺髪を採取しました。採取した様々な種類の髪の毛(細い髪、太い髪、染色した髪など)や最適な本数について、4種類の市販キットを使い比較検討を行いました。4種類のキットでDNA抽出した後、遺伝子が検出できるか確認するために、ミトコンドリアDNAの遺伝子を増幅するといった解析を行う作業から、慎重に時間をかけて行いました。
――今回のプロジェクトは、御社にどのような意味合いをもたらしましたか?
2015年7月7日に「手塚治虫遺伝子解析プロジェクト」始動の発表を行った際、漫画の神様・手塚治虫の遺伝子を解析するという事で、たいへんご注目いただきました。25年前の遺髪と血縁者の遺伝情報からDNAを採取した難易度の高い解析で、当社の遺伝子検査における高度な最新解析技術の公開や研究員のレベルの高さを世に示す事ができました。
2050年までに「健康寿命を5歳伸ばす」
――遺伝子検査の重要性についてお聞かせください
遺伝子検査は現在の病気を診断するものではなく、自分の体質や将来の発症リスクを調べるもので、ご自身の生活習慣を見直したり、事前のケアを心がけるための指標です。医療の現場で、従来からある万人向けの西洋医学に加え、遺伝子でパーソナライズ・個人化ができれば「一人ひとりに合った予防や医療」が提供できます。 当社は、2020年までに国と足踏みをそろえ「健康寿命を1歳伸ばす」という目標を、2050年までには「健康寿命を5歳伸ばす」という目標を掲げています。また遺伝子解析には、病気の診断だけではなく、ゲノム創薬と言われる領域もあり、2030年までに「日本の遺伝病の患者さんを50%削減したい」と当社では考えています。将来的には健康寿命を伸ばし、医療費の削減につなげられるのではないでしょうか。
手塚治虫の「想起力」「知的好奇心」「記憶力」――
――「手塚治虫遺伝子解析プロジェクト」の展開について教えてください
本プロジェクトを記念して、『火の鳥』のイラストをパッケージに使用した遺伝子検査キット「Genesis」を販売しています(10000個限定、19800円(税抜)、パッケージは4種類)。がんや生活習慣病といった遺伝的な発症リスクや、栄養素や寿命の傾向などの体質的な特徴を解析し、360項目1000遺伝子を総合的に調べる事が可能です。
8月27日、特設サイトにて「手塚治虫遺伝子解析プロジェクト」の解析結果を、「想起力」「知的好奇心の強さ」「記憶力」など様々な項目で、ダイヤモンド型グラフィックスを用いて公開しました。
長男の手塚眞氏が「家族の目から見ると、父親は普段の人柄は本当に温厚で優しい人なんですが、一度仕事をはじめて作品の事となると、厳しく没頭して、普通の人ではしない仕事の仕方をしていました」と同プロジェクトのイベントで回顧した手塚治虫。今回のプロジェクトは、後年語られる“漫画の神様”手塚治虫のパーソナリティが遺伝子の側面から裏付けられる結果となった。
(文・PAGEVIEW編集部)